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「顧客本位を貫き寡占市場に挑む」

2002年 国民金融公庫調査月報 9月号



顧客本位を貫き寡占市場に挑む
国民金融公庫調査月報


国民金融公庫調査月報
顧客本位を貫き寡占市場に挑む



















これまで、規模が拡大してきたにもかかわらず、数社の大手企業に支配され続けてきたマーケットの一つがかつらの市場である。
(有)ウィズの宮崎さんはこれまでにない売り方を導入して、寡占市場に新風を吹き込んでいる。

[低価格のかつらをネットで販売]

−まず、事業の内容について教えて下さい。

 低価格のオーダーメイドかつらをインターネットで販売しています。ネット経由で注文を項くと、まず、お客様には提携している理美容店に出向いてもらいます。

そこでは理美容師が髪質や色、頭の形などを診断し、型を取って図面を作成します。それを工場に送って約50〜70日でかつらは出来上がります。

その後、再びお客様に理美容店にお越し頂き、残っている自毛に調和するスタイルにかつらをカットして完了です。

 値段は部分かつらが一律14万8,000円。全かつらは一律16万8,000円です。大手メーカーのものが40〜80万円はするといわれていますので、かなり割安です。

一般の男性や女性だけでなく、ガンや肝炎などの投薬治療で脱毛された方にも愛用項いています。


−そこまで値段に差があるとお客様にとっては見過ごせませんね。

おっしやるとおりです。でも、お客様にとって、費用負担はこの程度ではありません。

かつらには寿命があります。プラッシングするときに絡まることを防ぐため、使用される人毛のキューティクルは、あらかじめ硫酸で半分ほどはがされます。すると、どうしても色落ちしやすくなるので、年に1回は染め直さなければなりません。

また、週に1回は洗浄が欠かせません。半然、徐々に痛んできます。3〜4年持てばいいところでしょう。

 耐用年数を経過したものは大幅な修繕が利かないため、買い替えなければなりません。単価が50万円以上もするのですから、10年、20年という期間で考えれぱ、たいへんな負担になります。

それはもう、車を買い替えるようなものです。実際、ユーザーの大半が、この更新費用に悩まされています。


−大手がそれほど高い値段をつけているものを、どうして御社は低価格で販売できるのですか。

当社は従業員数3人の小さな会社です。製造は中国にある世界最大級のかつら工場に委託しています。直接取引することで中間マージンを除いているのです。

ご存じないかもしれませんが、偏食や強い成分を含んだシャンプーの影響で、日本には美しい髪をもつ人が、ほとんどいなくなりました。

一方中国には、健康な髪をもつ女性がまだ大勢います。毛髪の売買も行われており、結婚費用を賄うために、嫁入りまで髪を伸ばし統けて、売る習慣が残っている地方すらあります。

 くわえて、かつらを作れる職人がたくさんいます。人毛を一本一本手作業で人工皮膚に埋めていくかつら作りは、根気の要る仕事です。

古くから交易品として欧米へかつらを輸出していた中国には、品質の良いものを作れる産業基盤が日本より整っています。

原材料や労働力が豊富なため、コストは低くなるのです。

 でも、価格の差を生みだしている何よりも大きな要因は、広告宣伝費です。

 テレビのゴールデンタイムや新聞・雑誌、そして電車の中吊りに、大手のCMを目にしたことがある人は少なくないでしょう。当然、膨大な広告宣伝費がかかります。

一説には、売上高の約60%にも相当するといわれているようです。当社は、ホームページ(以下、HP)とバナー広告で宜伝しているだけですので、コストを著しく抑えられます。

低価格を実現している最大の理由はここにあります。


[一通のメールがきっかけになることもある]

−話は変わりますが、この事業を始められるまでの経緯についてお話ください。


 わたしは大学を卒業後、日本移動通信に5年間勤務し、営業企画を担当しました。93年に退職し、国際政治学を学ぶために米国に留学しました。大学時代からの夢でした。

勉強するために渡米したものの、わたしに最も影響を与えたのは別のものでした。それは、インターネットです。

94年は、俗に「インターネット元年」と呼ばれ、米国では、企業がHPを次々に立ち上げ始め、学生はメールで情報交換することが当たり前になりつつありました。

日本にも、近い将来必ずインターネットが普及する時代がくる。わたしはそう確信しました。

帰国後さっそく、あるインターネットプロバイダーに就職し、営業を担当する傍ら、個人的にHPの開設代行やネット広告のシステム開発を始めました。

転機が訪れたのはちょうどそのころです。ネットを使って作業をすることが多かったため、何人かのメール友達ができました。

メールとは本当に不思議なものです。面と向かっては話しにくいことでも、メールを通せぱコミュニケーションできることがあります。

実際、仕事や恋愛の悩みなどを、メールを交わして相談し合う人たちは少なくありません。
 
 「これからどんなネットビジネスが有望だと思いますか?」。将来もネット関連の業務に携わり続けたいと思っていましたので、わたしもメール友達に仕事の相談をすることがありました。

 あるとき、メール友達の一人から、「周囲の人には内緒にしていますが自分はかつらのユーザーです。かつらをネットで売ってみたら面白くないですか」という一通のメールを項きました。

本当に偶然です。かつらについてまったく知識のなかったわたしは情報集めに奔走しました。業界のデータを集めたり、実際に中国からかつらを輸入している理容店経営者を訪ねたりもしました。


−まずは情報収集というわけですね。

脱毛や薄毛に悩む人は国内におよそ1,000万人いるといわれており、その数は増え続けています。正確な数値はわかりませんが、かつらの潜在市場規模は約1,000億円という調査結果があります。

魅力的なマーケットなのです。それを大手メーカー数社で寡占しています。「成長市場にもかかわらず今まで新規参入がほとんどない」。

このような不可解な市場構造を形成しているのには訳があります。ほかの商品と異なり、かつらには「ロコミが起きない」という特微があるのです。

たしかに、自分がかつらを着用していることを話したがる人は、まずいません。使用をオープンにしている人でも、どこで買ったとか、いくらしたとか、使い心地が良いとかいったことまで口にしたがる人はいないでしょう。

つまり潜在的に需要はあっても、広告・宣伝しなければ市場を拡大しにくい商品なのです。ですから大手メーカーは膨大なコストをかけてまで、マス媒体を利用する広告戦略を続けているのです。


−ではなぜ、資金力が乏しい新規開業企業にもピジネスチャンスがあると思われたのですか。

一言で申し上げると、ユーザーの多くがさまざまな不満を抱いていることに気づいたからです。

先ほどもお話ししましたように、値段が高すぎることはその一つですが、それ以外にもビジネスチャンスはあると感じました。

大手メーカーの販促活動には、顧客が本当に知りたい情報が盛り込まれていないのです。

たとえば、かつらの修埋や手入れについてはほとんど説明されていませんし、寿命については、「使い方によります」としか記されていません。

 こうした不透明な情報開示の最たるものが価格の表示です。大手メーカーでかつらをつくる場合、頭皮の診断を受けた後、見積りについて説明されます。

当初は安い価格を提示されるものの、「毛の質が良いこちらの方が長持ちします。だから○○円アップです」。「たった○○円アップで白髪を入れた歳相応のかつらになります。そのほうが自然に見えます」。

こうしたオプションの価格は、事前には知らされていません。

値段の高さにとまどうものの、勧められるままに高いものを買ってしまう人が少なくないそうです。かつらを作ろうとしている人は、多かれ少なかれ心理的な負い目を感じています。

一大決心をしてかつらメーカーの門をくぐる人がほとんどです。ですから、何度も足を運んで、検討してから購入しようと思う人はいないでしょう。

 業界事情を知れば知るほど、ユーザーの不満をなんとか解消したいと思うようになりました。その答えがネット販売です。

 インターネットを使えば、コストをかけずに情報を発信できます。メールを使って個々の相談にもきめ細かく対応できます。一律価格を導入すれば、お客様は事前に予算を立てられます。

新規参入企業にもかならずビジネスチャンスがあると感じました。


[「ネットコミ」なら起こせる]

−実際にインターネットで販売されてみていかがですか。

 問い合わせは、毎日数件づつ頂いております。「なぜこんなに安いの」。「質が悪いのではないか」。「修理にはいくらかかるの」。こんなメールが徐々に増え、今では月に約150通届きます。

歴史も実績もない会社ですから、信用をつくるために、一つひとつに丁寧に対応しています。
と同時に、HPの充実に努めています。

お客様から寄せられた質問を公開し、閲覧できるようにしました。希望者には、メールマガジンも配信しています。

 おかげでアクセス数は順調に増えており、今では1日当たり80〜100件に達しています。注文もすでに350件ほど頂きました。

 知名度も高まり、最近では、ネット上の意見交換のサイトで、当社のことが話題にされています。ロコミは駄目でも「ネットコミ」なら起こせるのです。

−今後事業をいっそう拡大されるうえで、何が課題になりますか。

 一番大きな課題は、提携先理美容店を増やすことです。現在、代理店契約を結んでいる理美容店は全国にまだ9ヶ所しかありません。

 そのため、お客様にカウンセリングの順番を待ってもらったり、遠方の理美容店に出向いて頂いたりすることがあるのが現状です。

 実は、理美容業者の間にはかつらに対する偏見があります。昔から「そろそろかつらにしませんか」と勧めたとたん、その客を失うといわれてきたためです。これが災いしているのかもしれませんね。

 でも、当社の販売方法では、注文を受けたお客様を紹介するわけですから、理美容店は、すでに購入意思を固めているお客様に間違いのないサービスを捉供してくれるだけでいいのです。顧客開拓は、あくまで当社の仕事です。

 現在、HPを開設している理美容業者を検索し、技術や考え方がしっかりしているところをターゲットに募集活動をしています。

 幸い、捉携してくれた理美容店の方には好評です。「お客様にたいへん喜んでもらえました」。こんな声が寄せられています。

どんなに優れたかつらを販売しても、実際に接客に当たるスタイリストに共感してもらえなければ、お客様から信用を得ることはできませんし、このビジネスモデルは機能しません。

彼らに納得してもらえることは、励みになります。反響が広まって、ゆっくりでもいいですから提携先の数を増やせればと思っています。


−聞き手から−

「眼鏡をかけるようにかつらをつけられる世の中をつくりたい」。最後にこうつぶやいた宮崎さん。顧客本位の姿勢を貫く戦略の底にあるのは、ユーザーへの深い思いやりと理想だ。

「大切なのは顧客二ーズの追求」。ちまたの経営コンサルタントがこともなげに唱えることをやり抜〈には何が不可欠か。宮崎さんの言葉からは、それがうかがえる。(藤野信裕)



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