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着脱つれづれ日記1 ドキドキ型取りの日 型取り編
かつらクチコミレビュー ペンネーム:カムーロ見や毛レオさん
●ドキドキ型取りの日
思いきってカツラの注文をネットでした後、指定の日時と美容室の場所を教わり、今日は「型取り」のため美容室「アルーアルー」に行く日だ。
思えば美容室なんて何十年ぶりだろう。
そう、僕は24,5才の頃髪が肩まであったのだ。(28年前)
電車を乗り継いで自由が丘駅に降りた。「アルーアルー」の地図を頼りに夜道を急いだ。
歩くにつれ坂道有り暗がり有りで、少しボケ気味の印字の地図(ネットでプリントアウトした画像。のちによりクリアな地図に更新されたらしい)を街灯の下を通るたび見るのだが、方向音痴には簡単に分かる順路でもなさそうだ。
おや?前方を進む若い女性はこのヒト気のない夜道をいつも僕の前を歩いているじゃないか。僕がストーカーなどと勘違いしたらどうしよう。気を使いながら歩くこと20分。
明るい大通りが見えてきた。見たことのある風景だ。なあんだ、つい2年前、部の忘年会で約60人で宴会をしたしゃぶしゃぶ屋がそこにあるじゃないか、あの夜はくじで1等2万円の商品券が当ったから縁起がいい方角かもしれないな、この辺は。などと考えながらアルーアルーを探す。
いま時の若い人といえば茶髪金髪の良く言えば「モダーン」な、悪く言えば「世界から見た日本人の本来のアイデンティティを喪失した、むしろ日本人でなく振る舞うことにエネルギーを使い過ぎる」モロ、白人コンプレックスの現象を見受ける。僕の仕事場も茶髪金髪は多い。当人は流行りのファッションを楽しむ軽い気持ちなんだろう。
僕に言わせれば問題は「似合っているかどうか」だ。蒙古フェイスで金髪なんかよしてくれえ!
でも中年のひがみか表面だけ見た僕の偏見かもしれないけどね。おっと自分の大学時代を振り返れば、女性の靴をはいて長髪にROPEのロングコートを着て喜んでいたのだからヒトの事は言えないね。当時の大人から見ればオカマさんか怪物に映ったかも知れないし。
中3の娘が『父さん、茶髪をそんな風に言ってたらオヤジ狩りに会うよ』とぬかしおった言葉を思い出したとたんに「アルーアルー」の入口に来てしまった。
ちょっとためらうが「こんばんは」と言って入った。
入口ソファにしばし座って待つこと数分。緊張のあまりおしっこに行きたくなった。用件を告げてトイレの人となる。
「むむ、やはりお店の人は茶髪だ、来ない方が良かったかな。茶髪野郎なんて心のどこかでハゲ男を馬鹿にしているに決まっている。まあいいや、嫌になったら退散しよう、でもなぜ若いのにカツラ仕事もやってるのかな?」と疑問が生まれた。
ミラーの前で椅子に座ると店長さんが作業を開始。もう一人のサブ的な従業員の人はなぜか僕の90度の位置で机に構えてこちらを見ている。
何だか書記みたいだな。こわい顔をしているような気がする。閉店後の残業で機嫌でも悪いのかな。いかん、、僕は気を廻しすぎる。
店長中原さんがカツラに関して幾つかの僕の希望スタイルを聞かれた。全カツラか半カツラか、普段カツラをどんな風に使用したいか、白髪は何%混入させるか。
白髪と聞いて「ええ?そんな事まで応じてくれるんですか」と思わず声をあげるところだった。しかし僕は
「5%」。ぼそっと答えた。
「もう少し多い方がいいんじゃないでしょうか?え、やはり5%ですか、はい分かりました」即座に客の希望を優先し自分の考えを無理に通さないところがエライと思った。あとでもう少し多い方がよかったな、と反省したが。
正直言うと僕は黒いカツラを作ったあと、無謀にも自分でポスターカラーで白く塗った白髪を部分的に創作しようと思っていたのだ。それが初めからオーダーで出来るという感動的なシステムであることを知った。
僕は幼児の時から現在に至るまでの「ヘアーヒストリー」なるカラー写真の髪型履歴をパソコンでまとめてプリントし持参していたので、それを見せながら話した。
今回作るカツラのうしろの毛と自毛との境は大丈夫ですかと聞くと、中原さんは「大丈夫です、絶対に分かりません」とやけに力強く無表情に答えた。愚問だったのかも知れない。
(品質と美容室の技術が合体しているから自信たっぷりの答えが帰ってきたのだ、と後日に僕は納得した。)
「じゃ、型取りしましょう。当店オリジナルの型取りシステムです。」
このやりかたは大手のメーカーの樹脂型取り器による事務的な手法とは違い、深くフィットしたリアルな物を作るやりかたである、と自信ありげな中原さんの説明を受けた。
また大手メーカーの営業マンが取った型取りでいかにも既製品といったカツラは、お客さんが装着してみてどうも違和感があって結局着けるのをやめてしまう人は20%はいるということだった。
多分顧客中心のきめ細かな製品じゃなくてメーカー本位のカツラができてしまうんじゃないかな。
「その点私どものカツラはお客さんの希望にそって美容室の立場から一番自然な形に作りあげます。」
大きなサランラップのようなシートを頭上から降下させ頭に密着させると、「すそを両手でつかんでしっかり下に押さえてください」と中原店長。
なんだセルフサービスじゃないか、でも「芸術品」を作るんだからコラボレーションと言うべきかな、店長は誰のためでもない僕の薄毛解放のために残業をして「協力」して下さっているのだ。中年のおっさんは有り難く考えながら手に力を入れていた。
やがて店長はビニールテープを持って来てビビーッと切ってはサランラップの上にたんねんに時間をかけて貼っていく。
「国で言うとどこのカツラが優秀ですか?」とまたしても愚問かもしれないことを聞いてみた。
『それは日本の、中でも当WITH製品が間違いなく一番優秀なのです!』と答えが帰って来るとばかり思っていたら、中原さんはさらりと「アメリカです。」と言う。
えっ!アメリカ?
あのシナトラのアメリカ?ブルースウィリスのアメリカ?ジョンウェインのアメリカ?(みんなカツラだな)
黒いマーカーで毛の流れや印を書き込んで型取りは終了した。
店長は「お客さまの髪の毛に一番近い物で作りますのでちょっと見本に髪を切らせてください」この見本採取がカツラ完成ののちの日に周囲の驚嘆のもとになるなんてその時は想像もしなかった。
「では30日後に」
僕は夜道へ出た。中原さんは店長としてお店を運営する立場、やはりしっかりしておられる。毛を染めて商売上見かけは軽いが実際は苦労人なのだろう。
「アルーアルー」を出るとタクシーで自由が丘駅へ。ホームに立って携帯電話で「今から帰る」とかみさんと話していると、見たことのある顔が微笑んで目の前で会釈している。今日は休日、よく見ると新婚ほやほやの派遣社員夫婦じゃないか。だんなさんはカメラマンだといつか言っていたな。
「見や毛さん、自由が丘にいらっしゃることあるんですか?」
ほとんど来ないが、一瞬、20代の頃よく飲みに来ていたことを思いだした。
「うん」
「どちらに?」黒髪の彼女がのぞき込む。
「ん、いやちょっとね ビ!美容室に。人に言えない用があって、理容室だったかな、あはは」
僕は隠しだてのない大らかなカツラ利用を身をもって実行しようと考えている。なのにこのせりふはは何だ、もう隠そうとしてるじゃないか。
同じ大井町線に乗ると一つだけ座席が空き、二人は敬老の精神なのだろうか「どうぞ」と勧める。
ああそう?と言いながら座るのだが、二人は揃って眼下に僕のはげ頭を見下ろす位置になってしまった。
『へんね、見や毛さんの髪、どこもつついた形跡ないわね、ピアスっていうがらじゃないし』と思ったかな。考え過ぎかな?荏原町で若夫婦が降りるまでをどうでもいい話題でしばし過ごした。
翌朝その女性には聞かれもしないのに「かつらの型取りに行ったんだ!」と報告する僕なのでした。
お気楽かつら・カムーロ見や毛さん
この記事『着脱つれづれ日記1 ドキドキ型取りの日 型取り編』は、かつら取扱い歴20年以上のウィズのスタッフが執筆しお届けしています。
かつらウィズでは「髪を通して笑顔と自信を」を理念として、ウィッグをご提供しています。
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